大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和63年(行ツ)92号 判決 1989年7月04日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山原和生の上告理由について

上告人の主張するところによっても、上告人が、河川法七五条に基づく監督処分その他の不利益処分をまって、これに関する訴訟等において事後的に本件土地が河川法にいう河川区域に属するかどうかを争ったのでは、回復しがたい重大な損害を被るおそれがある等の特段の事情があるということはできないから、上告人は、あらかじめ河川管理者たる被上告人が河川法上の処分をしてはならない義務があることの確認(第一次的訴え)ないし河川法上の処分権限がないことの確認(第二次的訴え)及びこれらと同趣旨の本件土地が河川法にいう河川区域でないことの確認(第三次的訴え)を求める法律上の利益を有するということはできない(最高裁昭和四一年(行ツ)第三五号同四七年一一月三〇日第一小法廷判決・民集二六巻九号一七四六頁参照)。

そうすると、本訴はいずれも不適法として却下を免れないから、これと結論を同じくする原判決は結局正当であって、論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官伊藤正己の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官伊藤正己の補足意見は、次のとおりである。

私は、法廷意見に同調するものであるが、なお若干私の意見を補足しておきたい。

上告人は、本訴において、本件土地につき、将来、河川法七五条にいわゆる監督処分その他の不利益処分を受けるおそれがあるので、これを防止するため、あらかじめ、河川管理者たる被上告人が河川法上の処分をしてはならない義務があることの確認(第一次的訴え)ないし河川法上の処分権限がないことの確認(第二次的訴え)を求め、さらに、本件土地が河川法にいう河川区域でないことの確認(第三次的訴え)を求めるというのである。

右の第一次的訴え及び第二次的訴えは、講学上いわゆる「無名抗告訴訟」に当たるものと考えられる。このような訴訟は、行政事件訴訟法の認めるものではないということはできないが、その性質上例外的な救済方法であって、それが許容される場合は限られたものというべきである。原判決は、その許容される要件として、当該行政処分について行政庁の第一次的判断権を実質的に侵害しないこと、その処分がされ、又はされないことによって生ずる損害が重大であって、事前の救済を認めるべき緊急の必要性のあること、他に救済を求める手段がないことを挙げているが、この見解は正当として是認することができる。本件の場合、上告人が、右の監督処分その他の不利益処分をまって、これに関する訴訟等において、事後的に、本件土地が河川法にいう河川区域に属するかどうかを争ったのでは、重大な損害を被るおそれがあるとは認められず、したがって、事前の救済を認めるべき緊急の必要性があるとはいえないから、上告人は、右の義務の存在の確認(第一次的訴え)ないし処分権限の不存在の確認(第二次的訴え)を求めることは許されない。

また、右の第三次的訴えは、訴えそのものの趣旨とするところに上告人の主張の仕方をも併せ考えると、本件土地が河川法上の規制を負わないことの確認を求めていることが明らかであるから、結局、右の第一次的訴えないし第二次的訴えと同趣旨の無名抗告訴訟と解される。そうすると、右の第三次的訴えは、これらの訴えが許されないのと同じ理由をもって許されないといわざるをえない(仮に、右の第三次的訴えが行政事件訴訟法四条にいう「当事者訴訟」に当たるとしても、その場合、右の第三次的訴えは、本件河川の管理主体である国を被告として提起し追行すべきものであって(地方自治法一四八条二項、別表第三(一一一)参照)。その機関である被上告人を被告として提起すべきものではないから、この点において不適法である。)。

(裁判長裁判官 坂上壽夫 裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 裁判官 貞家克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例